あの日、桜のキミに恋をした
同窓会は都内のホテルの広間を貸し切って立食形式で行われた。


学年全クラスの生徒と、何人か教員も参加していた。


「よっ!こういうとこで会うのは久しぶりじゃん!今日は普通に休み?」


「おー!もう基本的に土日は休みになったから来てみた」


一番最初に声をかけてきたのは沢村だった。


沢村とは定期的に会っているからお互い新鮮な感じはしない。


少し話ををしてから沢村はまた別のテーブルへと移っていった。


他には誰が来ているのかと会場を見回していると、今度は懐かしい声がした。


「あれー!康介じゃん!」


「おー久しぶり!」


話しかけてきたのは元カノ。


由奈と別れてからなんとなく付き合って、なんとなく別れたコだ。


あの頃の俺は、由奈がいなくなってぽっかり空いた心の穴を埋めようと必死だった。


〝恋愛の傷は恋愛でしか癒せない〟なんてふざけたことを言った奴に物申してやりたい。


お前はなんにもわかってないと。


恋愛は何一つ同じものはない、替えが効かないものだ。


いくら他の恋愛で埋めようとしても、かえって虚しくなるだけだった。


「もしかして阿部さん探してる?」


「は?別にただ他に誰が来てるのか見てただけだよ」


他の奴は俺の前では絶対に由奈のことを口にしない。


多分気を遣われてたんだと思う。


そんな中、彼女だけは昔から何も気にせず思ったことを口にするところが案外嫌いじゃなかった。


むしろ、腫れ物みたいに扱われるよりずっと良かった。


「ぜーったいウソ!バレバレだよ。ていうか、うちの学校を卒業したわけじゃないんだから呼ばれないでしょ」


「だーかーら。違うって」


本当に由奈を探していたわけではない。


俺だって由奈がここに呼ばれるはずがないことくらい分かっている。
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