あの日、桜のキミに恋をした
「例のあの人とは順調?」


先輩は猫舌のくせに、まだ湯気が立っていてどう見ても熱そうなチーズのフリットに手を伸ばしながら聞いてきた。


「人の彼氏を闇の帝王呼ばわりしないでくださいよー!」


そう言いながら、私はテーブルの上にそーっと自分の右手を差し出して、薬指に光るソレを先輩に見せた。


「それが、実はプロポーズされまして……でも断りました。春斗のこともあるし、結婚はまだ考えられないって。そしたら、でもこれはプレゼントだからって渡されちゃって。しかも付けてないと彼すごく不機嫌になるんです……」


先輩は私の手を取って色んな角度からまじまじと指輪を観察した。


「うわ〜高そうなやつ。さすが、会社経営者は違うな。ていうか、それ大丈夫か?束縛強めとかそういう域を超えてきそうだけど……」


「前から独占欲が強いなぁとは思ってたんですけど、ちょっと最近それが度を超えてるかもしれないです……」


どこで誰と会うかの連絡はマストだし、シフトが出たら必ず彼にも共有を求められる。


仕事以外でメッセージの返信が遅れたりすると『何かあったのかと思って』と電話がきたりする。


ここにきて、彼の内に秘められてきた気質の片鱗が見えてきたことはさておき、基本はとてもいい人なのだ。


春斗のことも可愛がってくれて、私には勿体ないくらいの相手だ。


それなのに、〝結婚〟と聞いて私は素直に喜ぶことも、首を縦に振ることもできなかった。
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