あの日、桜のキミに恋をした
「阿部が結婚に踏み切れないのって、まだアイツのことが忘れられないから……?」


先輩の言う〝アイツ〟とは、多分高校の時の彼のことだった。


「それは違います!だってもう10年近く前の話ですよ?あり得ないです!」


「ふーーんそっか。じゃあさ、また手伝おうか?あの時みたいに」


先輩の言う〝あの時〟というのは、多分康介と別れた時のことを指している。


別れる時の言い訳に、自分を利用していいよと言ってくれているのだ。


「あの時は甘えちゃいましたけど、もう先輩をあんな風には巻き込めません!だいたい、先輩にメリットがないじゃないですか」


「あるよ」


先輩は私の方を真っ直ぐ見つめて急に真面目な顔をした。


「え……?」


「例えただの口実だろうと、その時だけでも阿部の彼氏になれるなら、それだけで十分俺のメリットはある」


「ちょっ、何言ってるんですか先輩……!」


混乱している私のことはお構いなしに、先輩はどんどん話を続けた。


「今思うと初めて屋上で会ったあの時から惹かれてたと思う。しっかりしてそうなのに、どこか危なっかしくてさ。守ってやらなきゃと思って。気づいたらほっとけなくなってた。阿部のこと、ずっと好きだった。そんな男のとこいくくらいなら、俺のとこに来いよ由奈」


先輩は私の指から婚約指輪外してテーブルに置いた。
< 111 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop