あの日、桜のキミに恋をした
店を出てそのまま2人でタクシーに乗り込んだ。


先輩の部屋に入ったところで私は正気を取り戻し、彼にストップをかける。


つい成り行きでついてきてしまったが、やはりこれは良くないと思った。


「先輩……ちょっとまだ頭が混乱してて。やっぱりダメです。まだ彼とはちゃんと別れてないし、こんな状態のままじゃ先輩に失礼ですもん……」


最低かもしれないけれど、彼にプロポーズされた時はあまり心が動かなかったのに、さっき先輩に告白された時は胸の奥がキュンとした。


特にここ最近、私の中で先輩の存在がどんどん大きくなっていくのは感じていた。


だからこそ、こんな中途半端な状態で向き合いたくなかった。
 

「嫌がる由奈を俺が無理矢理シた……これでどう?」


先輩が私の腰を引き寄せて2人の体が密着する。


「先輩は私が嫌がったら絶対そんなことはしないって知ってますもん」


「その言い方はズルいな。わかった、じゃあ1回だけキスするから、嫌だったらもうそれ以上は何もしない。これでどう?」


私が答えるよりも先に先輩の唇が重ねられた。


本当にちょっと触れただけで、彼はすぐに顔を離す。


こんなの、先輩の方がよっぽどズルい。


そのまましばらく見つめあった後、私は先輩の首に手を回しながら顔を近づける。


舌が絡み合う深い口づけを交わしながら、私たちは奥の寝室へ向かった——。
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