あの日、桜のキミに恋をした
「この間の休みの日。明治神宮外苑の公園……ほら、覚えてる?うちの学校の先輩。すごい背高い人。よく由奈に会いに来てた……」


「あー、うん。あの人な」


「あの人と一緒だったの。あと小学生くらいの男の子。その時はそんなに踏み込んだ話はしてないんだけど、その子の年齢とか諸々考えると、多分あの先輩との子どもなんだと思う……」


〝公園〟と聞いてなんとなく予想はできていた。


子どもの年齢や由奈が高校を辞めた時期、そして今彼女の隣にアイツがいるということを考慮すると、橘さんの言う通り〝そういうこと〟なんだろう。


同窓会の時にその噂については聞いていたから、驚きよりも話の裏が取れてスッキリした気持ちの方が大きかった。


無責任で最低なヤツだと思っていたけど、今も由奈のそばにいるのなら、どうしようもないクズというわけではなさそうだ。


俺にこんなことを言われる筋合いはないだろうけど。


「……由奈、元気そうだった?」


「うん……元気そうだったし、家族3人ですごく幸せそうだった。でもね、連絡先は断られちゃったの。ごめんね」


別に橘さんが悪いわけではないのに、彼女は申し訳なさそうに謝った。


むしろそんな顔をさせてしまった俺の方が謝らなきゃいけない。


「そっか……元気ならよかった。わざわざありがとな!」


〝幸せそうだった〟という橘さんの言葉が頭の中で何度も繰り返される。


俺と別れてすぐに妊娠してしまうほどアイツと深い関係になったのか、あるいはもっと前からそうだったのか。


そんなことを今更考えても仕方がないし、真実を知ったところでどうにもならないことは頭では分かっているのに。


このやるせない気持ちは一体どうすればいいのだろうか。 


「もし佐々木くんさえ良ければ、今度は飲みに行かない?よく考えたら、この気持ちを分かり合えるのって佐々木くんだけなんだよね……」


「おーもちろん!基本いつでも大丈夫だから」


お互い友達として、恋人として、由奈と親しい間柄だったのに、彼女からは何も知らされないまま一方的に関係を断たれた。


俺たちは似た者同士だった——。
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