あの日、桜のキミに恋をした



一哉から『話がある』と連絡がきたのは、橘さんと会ってからすぐのことだった。


最近やたらとこういうパターンが多い気がする。


内容は検討もつかないが、メッセージのトーン的に、今回も楽しい話ではなさそうなのは確かだ。


「悪い急に呼び出して」


「いいよ。久しぶりに話したかったし」


一哉に呼ばれたのは、よくあるチェーンの居酒屋だった。


さすがの速さで、注文した生がすぐに運ばれてくる。


俺たちは「乾杯!」と軽くビールジョッキを前に出してから飲み始めた。


結婚の報告か?


彼女が妊娠?


まさか浮気された?


それとも一哉に何か重い病気が見つかったとか?


一哉からの話の内容を色々考えてはみたものの、どれもありそうでなさそうなものばかりだ。


「一哉から連絡くれんの珍しいよな。なんかあった?」


「あー……うん。実は由奈ちゃんのことなんだけど…」


「あ、え……?」


まさか一哉から由奈の話が出るとは思わず、変な声が出た。


危うく手に持っていたジョッキを落としそうになった。


「この間、たまたま会ったんだよ由奈ちゃんに。それでさ……」


一哉がその先を話すか躊躇(ためら)っているように見えて、俺は話そうとしている内容が大体分かった。


おそらく彼女に子供がいたという話だろう。


「由奈、子供いただろ?」


「えっ……康介知ってたわけ?」


前から知ってたぞと偉そうにマウントを取るような言い方をしてしまったが、正直俺もまだその事実を自分の中で飲み込めてはいなかった。


「知ったのはほんとつい最近。相手がさ、うちの高校の先輩なんだよ。当時から付き合ってるって噂にはなってたけど、妊娠させられてたってのは驚きだったわ。まぁこれで学校辞めた理由にも合点がいくけどな」


「そっか、知ってたのか……でもそれなら、その情報は多分ちょっと間違ってると思う」


一哉は真剣な表情で真っ直ぐこっちを見た。


俺はその気迫に押され、持っていた箸を皿の上に置く。
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