あの日、桜のキミに恋をした
「あべ春斗。お母さんはあべゆな。でん話ばんごうは090-4523-xxxx」
やっぱりそうだ。
これを運命のイタズラと呼ばずして何と呼ぶ?
今署員がこの子の母親だという〝あべゆな〟さんの携帯に連絡を取っているから、彼女は息子を迎えにここへ来ることになる。
会いたいような気もするし、会わない方がいい気もして。
葛藤の末、由奈が来る前に俺はここを離れることにした。
「事情聴取も終わったので、佐々木さんはお帰りいただいて結構ですよ」
「了解です。お疲れ様です」
ちょうど帰宅の許可も出たところで、俺が帰ろうとすると、少年が服の裾を掴んで引き止めてきた。
何も言わずに真っ直ぐ俺のことを見上げている。
俺に似てると思ったけど、目は由奈の目だった。
「行かないで」と訴えるような彼の不安そうな顔を見たら、俺の都合なんてどうでもよく思えた。
「やっぱり、この子のお母さん来るまでここにいます」
俺が頭を撫でながらそう言うと、ニカッと笑顔を見せた。