あの日、桜のキミに恋をした
Side 由奈


今日はお母さんがうちに来れない日だったけれど、私もそんなに遅くならないことが分かっていたから、止むを得ず春斗には鍵を渡しておいた。


それでも仕事が終わって病院を出れたのは18:00過ぎ。


でも今日は買い物もないから、19:00前には家に着くはずだ。


早足で駅に向かいながらスマホを確認すると、知らない番号から何件か着信が入っていた。


「え……?警察……!?」


番号をネットで検索すると、着信はうちの近くの警察署からのものだった。


警察から連絡があるなんて、春斗に何かあったのだ。


事故?事件?春斗は無事なの?


私は折り返しの電話をかけながら、タクシーに飛び乗って警察署へ向かった。


警察署に着くと、警察の人が春斗が待つ部屋へ通してくれた。


春斗は机で絵を描いていた。


「春斗!」


「あ、お母さん!」


私は駆け寄ってきた春斗を思いっきり抱きしめて無事を喜んだ。


何があったのか話は聞いた。春斗のことを連れ去ろうとした犯人は、この辺りで子どもに声をかけている常習犯らしく、今日たまたま通りがかった人が様子がおかしいと思い捕まえてくれたらしい。


「はじめまして阿部と申します。本当にお世話になりました」


私は春斗の隣に座っていた男性のそばへ行きお礼を伝えた。


頭を上げて目が合った時、腰が抜けるかと思った。


その瞬間の私の顔はきっと酷いものだったと思う。


何度も夢を疑ったし、ただのそっくりさんかとも思った。


でも、私が彼のことを……康介のことを見間違うはずがなかった。


「……佐々木です。いえ、無事で何よりでした……」


ガチャンと音を立てて彼はパイプ椅子から立ち上がった。


私たちはとても元同級生とは思えないほど他人行儀な挨拶を交わした。


美月といい一哉くんといい、これはどういう巡り合わせなのだろうか。


止まっていたはずの運命が、今になって動き出したようだった。
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