あの日、桜のキミに恋をした
緊張と疲れ、そして怖い思いもしただろう春斗は、私が警察署に着いてから諸々の書類に記入をしている間に電池が切れたように眠ってしまった。


今私は右腕で春斗を抱え、左腕に自分のバッグとランドセルをかけて警察署を出た。


「俺抱っこするよ」


「いや、大丈夫だから!」


「いいから。いくら子どもでも寝てたらかなり重いだろ?由奈の細い腕だと折れるよ」


春斗の成長を右腕に感じながらフラフラ歩く私を見兼ねた彼が春斗をひょいっとおんぶしてくれた。


「うちまで来てもらうと帰るの遅くなっちゃうよね。家遠い?」


「俺もここら辺住んでるからさ。それは平気だよ」


「そうなんだ……」


私は、彼がもし春斗のことを聞いてきたら何て答えようか、そればかり考えていた。


でもそんな心配はいらなかったようで、帰り道の私たちの会話はこれきりだった。


マンションに着いて春斗を受け取って別れようとした時、私たちのお腹が同時に「ぐぅぅぅ〜」と悲鳴を上げた。


実はこの時、時刻は間もなく21:00になろうとしていた。


「腹鳴る音がハモるとかやばいな俺ら。高校の時もさ、由奈を家に送ってった時に……って悪い、何でもない」


昔話を言いかけて、彼は苦笑いした。


「……簡単なもので良ければ食べて行かない?1人分だと作るの勿体無いし」


さっきまで彼と話すことに怯えていたのに、この時どうして自分がこんなことを言ったのかは分からない。


もしかしたら、彼と懐かしい思い出話をしたくなったのかもしれない。
< 128 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop