あの日、桜のキミに恋をした
Side 康介 


由奈が署に来るのを春斗と待つ間、やっぱり春斗は間違いなく俺と由奈の子だと確信した。


一哉の言う通りだった。


あの後由奈の家に行って一緒にご飯まで食べたから、話しを切り出すタイミングはいくらでもあったわけで。


春斗が俺の子なんじゃないかと彼女に聞くことは簡単だった。


でも当時の由奈は、きっと色々悩んだ末にあの選択をしたんだろうし、それは決して生半可な覚悟ではなかったはずだ。


俺が春斗について何か触れないか気にしている様子の由奈に「俺の子だろ?」と問い詰めるのは正しい選択ではないと思った。


何より、由奈は今もあの男と付き合っていて、幸せだと言ったから。


今さら蒸し返して彼女と春斗の生活に割り込むまいと思っていたのに……。


なぜかあの日を境に、最寄りの駅や店で由奈や春斗に会うことが多くなった。


こんなに近くに住んでいたのだから、もしかしたら気づいていなかっただけで、これまでもすれ違っていたのかもしれない。


「あ!けいさつのお兄ちゃん!」


春斗は俺を見かけるたびに走って来てくれる。


由奈と春斗とあの先輩が3人で歩いているのを見かけて慌てて引き返したこともある。


どうして2人の隣にいるのが俺じゃないんだろう——。


一度繋がりができてしまうと、どうしたってわがままな自分の欲が顔を覗かせる。
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