あの日、桜のキミに恋をした
会うのはお互いの中間地点辺りでと思っていたのに、美月が提案してきたのは私の家からの方が近い、蔵前にあるカフェだった。


「このカフェこの前康介に連れてきてもらったんだけど、すごく雰囲気良くない?」


あれ?康介って私も知ってるあの康介?


2人は今も会うような仲だったんだ。


あの頃は呼び捨てにはしてなかったはず。


私が知らない空白の間に2人の距離は随分縮まったらしい。


私が心配していた春斗の話題なんて、ひと言も出なかった。


「この間会った時は言えなかったんだけど、実は私康介とね、その……そういう感じになりそうで」


私は反応に困って、ただただ無言で頷いていた。


私に気を遣っているのか、恥ずかしがっているのか、イマイチ釈然としない言い方だった。


要するに、美月と康介は付き合っているということなんだろうか。


「過去を乗り越えて、康介もやっと前に進もうってなってるの。だからね、できればそっとしておいてほしいなって……」


美月が〝康介〟と言うたび、なぜか私の心がザワザワした。
 

美月は私に康介と会わないでほしいと言いたいんだろうけど、そもそも私にそれを言うのはお門違いなのだ。


彼とは連絡をとっているわけでもないし、春斗を助けてもらったあの日以来、約束して会ったことなんて一度もない。


「一度子どもを助けてもらった時にたまたま会っただけで、連絡先も交換してないからもう会うことはないと思う。だから安心して?」


私がそう言うと、美月は分かりやすく安心した顔を見せた。
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