あの日、桜のキミに恋をした



ある休日。


お風呂上がりに先輩と2人、うちのソファに並んで座ってテレビを見ながら、私は康介と再会したことを彼に話すべきか悩んでいた。


別に隠す必要はないけれど、あえて話すとかえって意識しているように思われてしまう気がして。


あれは街でネコを見かけるような、それくらい何でもない出来事だし、私自身がそう思いたかった。


でもこういう時は大抵思い通りにはいかないもので。


私がぐずぐずしていたせいで、先輩の方から話をさせてしまう結果になった。


「そういば、元カレに会ったんだって?」


「えっ……!?」


「……ごめん、春斗から聞いちゃってさ。もしかしたらと思って……」


しまった……。


春斗から話が漏れる可能性を私はすっかり忘れていた。


まさかこんな事情を知らない春斗は、きっと最近あった出来事を先輩に聞かせたかったんだろう。


「はい……会いました。なんか家が近いみたいで偶然。でも彼にも恋人がいるみたいだし、もう本当に何もないんです!」

 
彼は「そっか…」と私の手を握って繋いだり離したりして遊んだ。


「アイツは春斗の父親な訳だし、本人たちはそのことを知らないとしても、そこを邪魔するつもりはないんだ。でも、由奈がアイツと2人きりで会うのはちょっとキツイ、かな……」


「え……?」


私は瞬きしながらフリーズした。


だって先輩は出会ったあの頃から、常に大人の余裕があって、飄々(ひょうひょう)とした人だった。


だから、嫉妬とかとは縁遠い性格だとばかり思っていて、つい驚いてしまったのだ。
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