あの日、桜のキミに恋をした



「今日の夜ご飯何がいい?」


「カレーがいい!」


春斗が学校から帰って来て、私たちは近くの商店街に夕飯の買い物に来ていた。


こうして平日にも休みがあるのは不規則勤務の良いところかもしれない。


手を繋ぎながら春斗の学校での出来事を聞いていた。


「ねぇお母さん」


「なぁに?」


「オレのお父さんってどんな人?」


「ん……!?」


今までも、なぜ自分には父親がいないのかと聞かれたことはもちろんあって。


その時は『別々に暮らすことになった』と、嘘でもなく本当でもない説明をして終わった気がする。


先輩が頻繁に遊びに来てくれたり、行事にも保護者として参加してくれたこともあったから、それ以来春斗からそのことについて何か聞かれることはなかったのに。


最近色々なことがあったから、もしかすると私の知らないところで誰かが春斗に何か言ったのではないかと疑った。


「オレのお父さん、絶対こうすけくんみたいな人でしょ?」


「……何でそう思うの?」


「わかんないけど、なんかそんな感じする」
 

「でも春斗は潤くんとも仲良しでしょ?」

 
「じゅんも好きだよ!でもね、ちょっとちがうんだ!」


ちょうどスーパーに着いたところで、彼はそう言って買い物カゴとカートを取りに走って行ってしまった。


彼が康介に何を感じているのか、彼の言う《《ちょっとちがう》》とはどういう意味なのか。


もしかしたら本人もよく認識していないのかもしれない。


彼が何かを知ったわけではなさそうで安心したけれど、子どもの純粋さというのは時に残酷なんだと胸が痛んだ。
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