あの日、桜のキミに恋をした
Side 由奈


仕事帰りの電車の中で、私はそろそろ本気で引っ越しについて考え始めていた。


今まで会わなかったのがウソみたいに、最近はしょっちゅう康介と近所で会ってしまうから。


妊娠が分かった時、もし彼に話していたら、今頃どうなっていたんだろう——なんて、そんなどうしようもないたられば話まで考えるようになってしまった。


その度に先輩に対して、そして彼に対しての罪悪感に(さいな)まれる。


これは罰なんだと思った。


〝今日は彼に会いませんように〟と心の中で祈りながら最寄駅の改札を出ると、そこには目を疑うほど意外な待ち人がいた。


「沢村くん……?」


私が足を止めると、ちょうどこちらを見た彼と目が合った。


多分彼も私だと気がついて、私たちはお互い近づいて行く。


「久しぶり。ちょっと話せる……?」


私は黙って頷き彼について行った。


家で春斗を見てくれているお母さんに少しだけ遅くなるとメッセージを送っておく。


「やっと会えた……」


すぐ終わるからと、特にお店とかには入らずに私たちは広場のベンチに少し間を空けて並んで座った。


彼は私が康介と家が近いという情報だけを頼りに、この数日間あの駅を仕事終わりに張り込んでいたらしい。


そんなストーカー的行為をしてまでどうして私なんかに会いたかったのか。


今度は一体どんな話が飛び出すのか見当もつかない。


「とりあえず元気そうで安心した」


「うん……沢村くんもね」


高1の頃はクラスも同じだったし、確かクリスマスパーティーの後も何度かあの4人で遊んだりした記憶はある。


でも私たちを繋いでいたのは康介だったから、こうして2人だけで話したことは実はあまりない。


その上、会うのは8年ぶりだから、私たちの会話はとてもぎこちなかった。


「……阿部さんがいなくなってから、すごい大変だったんだからな?」


彼の口からは、私が知らない、私がいなくなってからの康介や美月のことが語られた。
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