あの日、桜のキミに恋をした
康介と阿部さんが別れて、それからすぐ彼女は学校を辞めた。


康介のメンタルはボロボロだったし、橘も相当ダメージが大きかったと思う。


俺はこの2人が、お互いの失ったものを補い合うようにしてくっつくんじゃないかと気が気じゃなくて、阿部さんのことをちょっと恨んだ。


でもそんな心配はいらなかった。


阿部さんがいなくなっても、康介の中には彼女しかいなくて。


アイツが橘に(なび)くことはなかった。


それなのに、新しく付き合ったコはちらほらいたっぽいから、余計に橘が哀れだった。


でも俺も人のことを言えた義理じゃなくて。


阿部さんがいなくなっても橘のターンがこなかったように、俺のターンがくることもなかった。


俺と橘はお互い〝親友の恋人の親友〟として出会ったから、その親友同士が別れてしまうと、俺たちを繋ぐものは消えてしまう。


でも俺たちの距離が縮まったのはむしろそれからだった気がする。


結局3年間同じクラスだったことも関係しているかもしれない。


ただ、俺が手に入れたポジションは、少女漫画で言うところの、黒髪男の方。


所詮ヒロインに選ばれることのない、ただのいい人止まりのやつ。


俺はまさにそれだった。


それに気付いた時はもう遅かった——。


人間は、男は、本当に単純なもんで。


それまで何とも思ってなかったコでも、好きだと言われれば悪い気はしないし、可愛いなと思う。


優しくしたくなるし、正直〝抱ける〟


橘以外には告白されるのに。


橘以外の彼女はできるのに。


橘とはいつまで経っても最高の〝友達〟のままだった。
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