あの日、桜のキミに恋をした
ブーッブーッブーッ


その時、私のカバンの中からスマホのバイブ音が聞こえてきた。


多分待ち合わせ時間になっても私が家の前にいないから、先輩が電話をくれているのだ。


私がカバンの中からスマホを取り出そうとすると、康介にやんわりと手を掴まれる。


こっちが先だと言われているようで、私もそれを振り切ることができなかった。


「なんで話してくんなかったんだよ!俺何も知らずに由奈1人に背負わせて……そんな信用なかった?そりゃ高校生だし頼りなかったかもしれないけど!もし話してくれてれば、俺が働いて由奈と子どもには絶対苦労かけなかったよ!」


「だからだよ!話したら康介が絶対そう言ってくれるって分かってた……自分を平気で犠牲にするって。だから言わなかったの!康介を縛り付けたくなかったの!」 


気づいたら私は頬を濡らしながら訴えていた。
 

「その言葉、そっくりそのまま由奈に返すよ……1人にしてごめんな」


康介は穏やかにそう言って、握っていた私の手を引くと同時に、私の頭を自分の胸に引き寄せた。


そして子どもを泣き止ませる時のようにトントンと撫でてくれる。


それが懐かしくて、心地よくて。


私はそっと目を閉じた。


「由奈!」
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