あの日、桜のキミに恋をした
Side 康介


電話の途中で急に由奈が何も言わなくなった上に、電話の向こうから男の声が聞こえてきたから嫌な予感がしたのだ。

 
俺は耳に携帯を当てたまま家を飛び出した。


時間的に考えて、由奈の家の近くのあの公園辺りにいることは分かっていた。


暗い公園の中で唯一光が漏れている公衆トイレが見えた瞬間、ここだと確信して飛び込む。


「由奈ッ!!!」


んーんん(こーすけ)ッ!!」


由奈は口にガムテープを貼られ、手足を縛られた状態で汚い床に倒れていた。


Yシャツのボタンが外されて、中の下着が露わになっているのを見て、俺の中で何かがプツンと切れた音がした。


完全に血が昇っていた俺は、トイレの外に男を引っ張り出して馬乗りになって殴り続けた。


「ダメ!これ以上は死んじゃう!康介が捕まっちゃう!」


由奈に後ろから抱きしめられてようやく俺は我に返る。


俺の下には顔面血だらけの男がぐったりとしていた。


かろうじて息はしている。


——もし由奈が止めてくれなかったら、俺は多分コイツを殺してしまっていた。


自分の拳にべっとりついた血を見てそう思った。


そんな汚れた俺の手を、彼女の白くて綺麗な手が包み込む。


俺は自分が着ていたパーカーを由奈にかけて抱きしめた。


怖い思いをさせたことに変わりはないけど、無事で本当によかった。


何から言えばいいのか分からなくて、俺は無言で彼女を抱きしめ続けた。
< 15 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop