あの日、桜のキミに恋をした
「潤さん待って!!」


後ろから何度呼んでも先輩は止まってくれなくて、ようやく追いついてから彼の手を掴み、半ば無理やりに止めた。


「……今ならフラれてやれるよ?俺からはフレそうにないし」


先輩はハハッと笑った。


彼にこんなことを言わせてしまう自分が情けない。


罪悪感を感じることすらおこがましいかもしれないけれど、私はこの気持ちを一生忘れてはいけないと思った。


「……私、先輩のこと利用するだけ利用して、ほんと最低です。でも、言い訳みたいに聞こえるかもしれないけど、先輩への想いが嘘だったわけではないんです。私が腐らずに今こうしていられるのは、他でもない先輩のおかげで。それだけは伝えたくて……」


「わかってるよ……嘘だったって言われれば恨めるのに、これじゃあ嫌いになれないから困ってるんだよなぁ」


私に怒りや恨みをぶつける権利があるのに、先輩の口からは一切そういう言葉が出てこなかった。


「本当にごめんなさ」  


私がごめんなさいと言いかけると、先輩が言葉を被せてきた。



「ごめんなさいは違うからな?もし一緒に過ごした時間に嘘がないなら、由奈が謝る必要はないよ。俺も好きで一緒にいたんだから」



本当に、どこまでできた人なんだろう。


「先輩……」


「ほら、アイツが待ってるぞ。早く行ってやれ!」


「……ありがとうございます!」


先輩は高校の屋上で私のことを受け入れてくれたあの時と同じ顔で、今度は私のことを送り出してくれた。
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