あの日、桜のキミに恋をした
Side 康介


覚悟はしてたけど。


やっぱり由奈はあの人を追いかけて行ってしまった。


この状況こそが答えかもしれないけど、それでも俺はまだ、彼女に伝えたいことがある。


元々出かけるようなことを言っていたし、あの人とこのまま行ってしまう可能性の方が高い。


ここで待っても帰ってこないかもしれない。


だから、由奈がここへ戻ってくるかは一種の賭けだった。
 

彼女が走って行った道の向こうから、また走って戻ってくる姿が見えた時、とうとう幻覚まで見るようになったのかと焦った。


俺も引き寄せられるように気付いたら走り出していた。


「……何でそんな驚いた顔してるの?」
 

「いや、だって……」


目の前には確かに由奈がいる。


まさかここへ戻ってくるとは思っていなかった。


——これは、期待してもいいのだろうか?


由奈はさっき泣いたせいか目元と鼻が赤くなっていた。


でもその表情はスッキリとしている。


「先輩がね、康介が待ってるだろうから早く行ってやれって!」


「……いい人じゃん」


「そりゃ〜ね?だって、私が好きになった人だもん」


彼女があまりにも愛おしげに話すもんだから、素直に妬ける。


あの先輩は、自分がどれほど幸せ者か分かってるのだろうか。


俺は拳を強く握り締めた。


「由奈……」


「ん?」


「……俺のとこ、戻ってきてほしい」


とうとう言ってしまった。


玉砕は覚悟の上の負け戦。


これだけ伝えられれば、どう転んでももう悔いはない。


「……私あんな最低なことしたのに、いいの?」


「え……?いやむしろ俺の方が……だって、あの先輩は……?」


「うん、先輩は大切な人。それはこの先も変わらないと思う。でも、コンビニで康介を初めて見かけたあの日から、心の中にはずっと康介がいるの。どれだけ時間が経っても、この初恋だけは消えないと思うんだ」


そう言って由奈は控えめに俺の胸に頭を預けてきた。


確かに、一度は離れたのに、こうしてまた巡り会えた。


俺たちはこの桜色の初恋で強く結ばれているのかもしれない——そんならしくないことを思いながら、俺は彼女を抱きしめた。
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