あの日、桜のキミに恋をした
そのうちに警察がやってきて、俺たちも警察署へ連れて行かれる。


中学生だから、当然親にも連絡が行った。


取調室で待っていると、由奈の両親と、俺の兄貴が入って来る。


多分親父はまだ仕事中なんだろう。


由奈の母さんは真っ先に由奈の方へ駆け寄って、親父さんは由奈の無事を確認してからゆっくりと俺の方へ向かってきた。


俺は反射的に立ち上がる。


「……君は?」


「佐々木康介です……由奈さんとお付き合いさせてもらってます」


由奈から親父さんが警察官だとは聞いていたけど、納得の貫禄だった。


「お父さんあのね、康介が助けに来てくれたの。じゃなかったら私……」


この雲行きの怪しい雰囲気を察してか、由奈が間に入ってくれた。


「……そうか、娘を助けてくれてありがとう」


「いえ……俺がもっと早く来ていれば……」


付き合っている云々はスルーされたと思ったその時だった。


「だが、もう金輪際うちの娘には関わらないでくれ」


由奈の親父さんは真っ直ぐ俺を見ながらそう言い切った。


そして俺の兄貴に「娘がご迷惑をおかけしました」と律儀に挨拶をして去って行った。

 
すれ違い際に目が合った由奈は複雑そうな顔をしていた。


俺は由奈たちの姿が見えなくなるまで見つめ続けた。


「今のままのお前じゃ、俺や父さんだって彼女と付き合うのは反対だぞ」


兄貴がボソッと呟いた。


本当にその通りすぎて何も言い返せない。


由奈を危険な目に遭わせて、兄貴にもこんな所まで来てもらって頭を下げさせた。


これが今の俺なのだ。


これからどんなに変わろうと、過去が消えるわけではない。
 

それでも俺は、初めて掴んだこの恋を手放したくなかった。


「兄貴……俺、今からでも間に合うかな?」


「……それはお前次第だけど、変わりたいなら、俺は全力でサポートするぞ」


兄貴の言葉が俺の背中を押してくれた。


容易な道のりではないだろうけど、頑張るしかない。


これから先もずっと、由奈の隣にいるために——。
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