あの日、桜のキミに恋をした
嫌でも時間は過ぎていって、気づけば季節は夏になっていた。


学校も夏休みに入り、受験生としてはここが一つの正念場だ。


〈由奈ー!気分転換にお祭り行かない?〉


8月某日。


親友の(たちばな)美月(みづき)からメールが来た。


この地域では毎年この時期に3日間ほど夏祭りが催される。


地元のお祭りにしてはかなり規模は大きくて、この辺に住んでいる人なら誰もが1度は行ったことがあるはずだ。


今年は康介と一緒に行けるな〜なんて考えていたけど、もはやそれは叶わぬ夢になってしまった。


私たちはおそらく自然消滅したと思われる。


〝思われる〟というのは、一応まだハッキリと別れようと言われたわけではないから。


そうではない可能性にまだ淡い期待を抱いている。


私は行くかどうか悩んだ。


きっとカップルも多いだろうし、今そんなものを目にしたらきっと穏やかな気持ちではいられない。


でも受験勉強ばかりのモノトーンな毎日に、息抜きも欲しかった。


〈うん!行きたい!〉


私は美月に行くと返信した。


お母さんにお祭りに行くことを伝えると浴衣を着るか聞かれた。


とてもじゃないけど、そんな気分にはなれなくて、私は断ったけど。


そしたらお母さんは、「そう。でもいいの?おめかししなくて。もしかしたら、会えるかもしれないわよ〜?」と、ニコニコしながら意味深なことを言ってきた。


会えるって一体誰に?康介に?


まさか、そんな奇跡起こるわけないじゃんと思いながら、私はクローゼットからワンピースを取り出す。


もしかしたら新しい彼女と来てたりするのかもしれない。


それなら尚更、浴衣を着て可愛くしたって惨めな思いをするだけだ。


私は屋台だけを楽しみに、出かける準備をした。
< 18 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop