あの日、桜のキミに恋をした
「あらあら!背伸びたんじゃない?一瞬誰だかわからなかった!今更だけど、あの時はうちの主人がごめんなさいね。由奈から彼氏のことなんて聞いてなかったもんだから私たちも驚いちゃって。それから、由奈を助けてくれてありがとうね」


由奈の母さんは俺の手を握りながら、俺なんかに礼を言ってくれた。


外の空気のせいで表面は冷たいけど、温もりが感じられる手だった。


昔冬の寒い日に、母さんも同じように手を握ってくれたのを思い出す。


「もしかして、由奈に会いに?」


「えーっと、はい……もうすぐ受験だし、年末だし、クリスマスイヴだし。ちょっとでも話せればと思ってメールしたんですけど返事がなくて……」


「ごめんね、あの子最近携帯全然見てないみたいなの。ちょっと待っててね、今呼んでくるから。良かったら中入って?」


「いや大丈夫です!顔見たらすぐ帰るんで!」


由奈の両親の中で、俺の印象は最悪だと思っていたけど、由奈のお母さんは何というか、フレンドリーだった。


俺たちのことを頭ごなしに反対しているわけじゃないのかもしれない。


「そうだ。あの人もうすぐ帰ってきちゃうから、ちょっと手短にね」


由奈の母さんはドアから顔を覗かせてウインクしながら言った。


あの人というのは由奈の親父さんだろう。


ちょっとイタズラっぽく笑った顔が由奈にそっくりだった。


それからすぐに、すごい音を立ててドアから由奈が出てきた。


会うのは数ヶ月ぶりだ。
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