あの日、桜のキミに恋をした
「急に押しかけてごめん!」


由奈の顔を見たら、安心と緊張が同時に押し寄せてきた。


「……ずっと待ってたのに……遅いよ」


彼女は俺の方まで来て、上目遣いで少しムスっとしながら言った。


俺はそんな可愛い彼女を腕の中に抱きしめる。


前はキスしやすい位置に彼女の額があった。


でも今は、彼女の頭の上にちょうど顎が置けるくらいに俺の中に収まっている。


やっぱり由奈の母さんの言う通り、俺は背が伸びたらしい。


「ごめん……俺器用じゃねぇから、1つのこと集中すると周りが見えなくなりやすくてさ」


「……元気だった?ご飯食べてる?無理してない?」


「おー!人生で一番頭使って毎日くたくただけど、すこぶる元気だ!」


彼女はそっかと言って俺の胸に顔を埋めた。


このまままずっとこうしていたいところだったが、由奈の親父さんが帰ってくる前に退散しといた方が良さそうだ。


それに、今日俺は伝えることがあって来た。


「……知ってるかもだけどさ。俺高校受験することにしたんだ。そしたら由奈の親父さんにも少しは認めてもらえるんじゃないかと思って。俺、絶対受かるから!だからもう少しだけ待っててくれると嬉しい!」


メリークリスマスと、少し早いけど良いお年をと伝え、俺はバイクスタンドを上げた。


「康介ッ!」


「ん?」


バイクを押し始めたところで名前を呼ばれる。


振り返ると背伸びをした由奈がチュッと俺の唇に口づけた。


気をつけてねと言ってそのまま戻ろうとした彼女を引き止める。


そんな軽いキスくらいで満足されては困る。


俺は再びスタンドを立て、バイクの上に彼女を乗せた。


こうすると、目線がほぼ一緒の高さになってキスがしやすい。


「こうすけッ……」


彼女が何か言う前に口を塞いでしまった。


隙間から舌を侵入させ、絡めとるように彼女の口内を(まさぐ)る。


空気は冷たいのに、2人の体はどんどん熱を帯びていく。


俺の服の裾を掴む由奈の手に力が入ったのを感じた。


あと少し、もう少しだけと、しばらく俺はその柔らかい唇を堪能した。
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