あの日、桜のキミに恋をした
「由奈!!」


「康介!?」


地面に座り込んでいる由奈の膝からは真っ赤な血が垂れていて、傷口には砂利も付いている。


思わず顔をしかめたくなるほど痛々しい。


「先生!阿部さんを救護所に連れて行きます!」


俺は由奈のそばにいた教師にそう言って、そのまま由奈を横抱きにして立ち上がった。



「…チョット、康介クン?スゴイみんなから見られてるんですケド!!」


由奈は両手で顔を覆いながら恥ずかしそうにカタコトで訴えかけてきた。


確かに、周りでは俺らを見て女子がキャーキャー言ったり、男子が面白がっている。


「だってそりゃあ、見せつけてんだから!」


恥ずかしがる由奈が可愛かったから、俺のリレーをそっちのけで他の奴と楽しそうにしてた分と、ハイタッチしてた分はこれでチャラにすることにした。


久しぶりの由奈との帰り道。


駅から家までは、断る由奈をガン無視して無理やりおんぶしながら歩いている。


「……重くない?」


「ぜーんぜん。むしろ軽すぎて心配になる」


背中に当たる柔らかい感触が気になって仕方がなかったことは言わなかった。


由奈は着痩せするタイプなんだろうか……?なんてちょっと思ったり。


暖かい夕日に包まれながらしばらく無言で歩いていると、由奈がその沈黙を破る。


「……意地張ってごめんね。康介と一緒に帰ったりできなくて寂しかった……」


「俺もひどいこと言いすぎた……ごめん」


耳元で聞こえる由奈の声が心地よくて、耳に当たる吐息がくすぐったくて、1人でニヤニヤしている俺を由奈は見逃さなかった。


「なんでニヤニヤしてるの!?」


「んー?秘密ー!」


「ちょっと!教えてってばー!」


俺たちの子供みたいなはしゃぎ声が、黄昏時に響き渡る。


特別なものは何も望まない。


どうかこんな毎日がずっと続きますように——。
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