あの日、桜のキミに恋をした
Side 康介


夏休みに入って2週間が経った頃。


俺は既に暇を持て余し始めていた。


由奈は帰省中で東京にいないし、学校の友達(やつ)とも、そんな毎日会うわけにもいかない。


一哉は相変わらずバイト三昧のようで、夏休みだけ一緒にやらないかと誘われたけど学校(うち)はバイト禁止になっているから断った。


万が一退学とかになったら困るからな。


「あー由奈早く帰ってこねーかなー」


ベッドに大の字で寝そべって大きな独り言を言った。


すると、その願いが叶ったのか、彼女から着信が来た。


「もしもし由奈?」


「もしもし?今電話大丈夫?」


「毎日暇してるから全然大丈夫。今まだじーちゃん所?」


「ううん!もう帰って来たの。それでね、お土産持って行きたいんだけど、康介の家まで届けに行ってもいい?急かな?」


——由奈がお土産を持って今から家に来る?


家にはもちろん誰もいない。


まさかお土産を渡してすぐ帰る・・・なんてことはないだろう。


そうなると必然的に「ちょっと上がっていく…?」というセリフが使える。


当然俺の部屋に通すことになるから、部屋には俺と由奈の2人きり……。


つまりこれは、例の行動に移すには絶好のチャンスではないか!


しかし俺は自分の部屋を見回して絶望する。


さすがにこんな散らかった部屋に彼女を呼ぶわけにはいかない。


片付けと、できればシャワーも浴びたいし、爪も切って……。


諸々の準備を考えると1時間。


いや2時間あれば足りそうだ。


俺は由奈に希望の時間を伝え早速片付けを始めた。


まだ今日《《できる》》かなんて決まっていないのに、俺は完全に浮かれ切っていた。


時間ピッタリに家のチャイムが鳴る。


ドアを開けると、そこには少し日焼けした由奈が立っていた。


たった2週間ぶりとかそこらなのに、すごく久しぶりな感じがして少し照れ臭かった。


「急にごめんね!これおじいちゃんちのリンゴとおやき。朝ごはんとかおやつになるから良かったら!」


「うわ、うまそう!わざわざありがとな!俺どこも行く予定ないからなんもなくてごめん!」


俺にお土産を渡すという目的を果たした由奈は手持ち無沙汰になって少し困っていた。


俺だけじゃなく、彼女も少しソワソワしているのは、ただ久しぶりに会ったからというわけではなさそうだ。


もしかして、由奈もなんとなくこの後のことを考えてた……?


とにかくいつまでも玄関先で突っ立ってたって仕方がない。


2時間もかけて準備したのだからもう覚悟を決めるしかなかった。


「良かったらウチ上がってく?会うの久々だし、話とか……さ?」


「う、うん……!じゃあお言葉に甘えて!」
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