あの日、桜のキミに恋をした
Side 康介


佐々木(ささき)康介(こうすけ)14歳。


職業は、多分不良中学生。


この春から一応3年生ということにはなるけど、だからと言ってどうということもない。

 
俺が(つる)んでる奴は大体みんな卒業したら働くって話してる。


まぁ勉強なんてもう何年もまともにしていないし、俺らに高校に行くという選択肢はまずない。


多分俺もテキトーに働くことになるんだろう。


もう手のつけようがない俺を諦めたのか、親父は何も言ってこない。


たまに家に来る兄貴は、未だに口うるさく「せめて高校は卒業しろ」と言ってくるけど、反発するのも面倒で、最近は「はいはい」と聞き流している。

 
母親はいない。


俺が小学生で、兄貴が高校生の時に病気で死んだ。


それまでは、どこにでもいるような普通の家庭だったと思う。


でも母さんが死んでから、それぞれがその喪失感を埋めるのに必死で、次第に家族はバラバラになっていった。

 
親父は、母親を失った息子たちにどう接すればいいか悩んでたんだと思う。


とにかく仕事一筋の人間になっていった。


別に暴力を振るわれるとか、愛されていないだとかそういうことはない。


ただ、こっちも親父との距離感が掴めなくなっていって。

 
兄貴は長男として、母さんのようなパイプ役を担おうと頑張ってくれた。


家のことも自分のこともちゃんとこなして、結局大学まで卒業した。


今は結構有名な会社で働いているらしい。


そして俺は分かりやすくグレた。


佐々木家のお荷物、面汚し。


母親の死を言い訳に、俺だけがいつまでもどうしようもないガキのままだった。


毎日一応2時間目くらいからは学校に行って、話したいやつと話して、給食食って、また話して。


学校が終わると、ダチとバイクを乗り回す。

 
1日の終わりは大抵近所のコンビニ前。


オーナーが爺さんの錆びれた店舗だから、夜に(たむろ)していても警察を呼ばれたりする心配がない。


あれは確か3月の終わり頃のこと。


俺はあの日初めて由奈(ゆな)を見かけた。
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