あの日、桜のキミに恋をした
「こうすけぇーーーーッ!」


叫びながらこっちに向かって走ってきたのは俺の彼女だった。


「え、由奈!?」


「今絶対殴ろうとしてたでしょ!?」


俺はギクッとした。


前に、これからは由奈を悲しませることはしないという約束を交わしていて、その中に一番含まれるのは暴力行為。


だからこれは約束破りの行動になるが、さすがの俺も今回に関しては譲れそうにない。


「いや、今回ばかりは俺も引けねェ。自分の彼女とか仲間を悪く言われて黙ってるなんて無理だ!」


「だからって暴力はダメ!……そんなことしたら退学になっちゃうかもしれないじゃん!私そんなの嫌だよ……」


由奈は目を潤ませながら両手で顔を覆った。


泣いてる?俺が泣かせた?


由奈が泣くなんて初めてのことで、俺は1人であたふたしていた。


「あーーーー悪かった、謝るから!わ、わかった。殴んねぇ!ほら、な?だから泣くなって」


俺だって別に彼女を泣かせてまで殴りたいわけじゃなかった。


どうすればいいか分からず、とりあえず俺は彼女の肩をさする。


「……ほんとに?」


「ほんとほんと!ほら、周りの人も心配してるし……」


まるで俺が泣かせているような絵面になっていて、道行く人からの責められるような視線が痛かった。


まあ実際俺のせいで泣いてるわけだけど。


とにかく今すぐここを立ち去るために、俺は奥の手を行使した。


「……由奈が飲みたがってたハロウィン限定のあのドリンク奢るからさ?だから帰ろうぜ?」


「……ホイップ追加していい?」


「あーいいぞいいぞたっぷり入れてもらえ!」
 

「よし!じゃあレッツゴー♪」


顔を覆っていた手を離し、由奈はすっかりケロッとした様子ですたすたと歩いて行った。


顔に涙の跡なんて全くなかった。


俺はまんまと騙されたのかもしれない。


しかし思い出したようにこちらに戻って来て、彼女は小林の前にしゃがんだ。


まさかこんな奴のこと心配して……!?
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