あの日、桜のキミに恋をした

「……それはヒミツー!これ以上はノーコメントで!」


少しはにかんだ様子の彼女を見て俺は確信した。


これは脈アリだぞ沢村!!!!


俺の頭の中はお祭り騒ぎだった。


今はまだ〝気になる人〟でも、これからそれが〝好き〟に変わる可能性は大いにある。


たったそれだけのことなのに、俺は自分のことのように嬉しかった。


できることなら沢村に教えてやりたいくらいだ。


俺なんて由奈の名前すら分からずにしばらく片想いしてたんだから。


切なくてもどかしい、ちょっとワクワクするようなあの気持ちはよくわかる。


しかし、このことは誰にも、由奈にも内緒にしてほしいと彼女から釘を刺されてしまった。


身を切られるような思いだったけど、こればかりは仕方ない。


「わかった。誰にも言わねぇ!俺たちだけの秘密ってことで!」


俺たちは指切りげんまんの代わりに、洗剤で泡だらけの拳同士をシンクの中で小さく合わせた。

 
「もし俺に手伝えそうなことがあれば何でもする!!超応援してるからな!!」


「……ふふふ……うん!ありがとッ……!」


別に俺はウケを狙ったつもりもないし、面白いことを言ったわけでもない。


それなのに、橘さんは目から涙が溢れるほど笑っていて。


よく分からなかったけど、俺もつられて笑ってしまった。


この時の彼女が、本当はどんな気持ちで俺と話していたのか。


それを知ったのは、10年近く経ってからのことだった——。
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