あの日、桜のキミに恋をした
あっさり手首を掴まれて彼に向き合わされる。


そして彼は、なぜか私が首に巻いていたマフラーを解いてきた。


「ちょっと!なんでマフラー外すの!?寒いんですけど!」


12月の夜ともなれば気温は1桁台。


風が吹いていなくても肌が出るととても寒い。


「今日からはこっちな!」


そう言って彼は別のマフラーを巻いてくれた。


買ったばかりの新しい匂いがする。


それは、前にデートした時に入ったお店で私たちが気に入ったマフラーだった。


「コレって……!」


「そ!前に2人で出かけた時に見つけたやつ。由奈似合ってたからプレゼント!もしかしてもう買ってた……?」


「えっとね、」


「もしかしてもう1つの色の方が良かった!?でも俺的に由奈はこっちかなって……」


私が話そうとしているのに、それを阻止するように彼が言葉をかぶせてくる。


私がマフラーを気に入っていないと勘違いして焦っているみたいだ。


そんなことあるわけないのに。


私が言いたいのはそうではない。


これでは埒が開かないから、彼にちょっと静かになってもらうため、私は背伸びをして彼の唇に口付けた。


その瞬間、彼の動きがピタリと止まる。


私が話していいか聞くと、彼は無言でコクコクと首を縦に動かした。


「実はね、私も……!」


「もしかしてコレ……!」


私が袋から取り出したのもマフラーだった。


もちろんそれは、デートの時に見ていた物で、彼が私にくれた物の色違い。


私が貰ったのは生地のベースがホワイトのチェック柄、そして私が彼に選んだのは生地のベースがモカブラウンのチェック柄だ。


「びっくりだよね!?私たち同じこと考えてたんだよ!」


「しかもお互い自分の分は買ってないっていうのが面白いよな!」


一緒に過ごしているとカップルの行動は似てくるらしいけど、どうやらそれは本当みたいだ。


私たちは色違いの新しいマフラーを巻いて、サンタさんからプレゼントを貰えた子どものようにはしゃぎながらイヴの夜道を並んで歩いた。
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