あの日、桜のキミに恋をした
「お邪魔しまーす」


放課後、康介はキョロキョロ様子を伺いながら家に上がった。


多分いつお母さんが出てくるか気になっていたんだと思う。


「お母さん今日帰るの遅いからいないよ!だから気張らなくて大丈夫。康介に家で食べてもらうこと話したら、ハッピーバレンタインって伝えて〜って言ってた!」


「由奈の母さんってそういう可愛らしいとこあるよな。さすが由奈のお母様って感じ」


「ちょっとー!私あんな天然じゃない!もっとしっかりしてるよ?」


康介はうちのお母さんともすっかり仲良しだけど、やっぱり親がいると緊張する気持ちはよく分かる。


前に康介の家にいる時にお兄さんが突然帰って来たことがあって、あの時は心臓が止まるかと思った。


すごく優しくて面白い人だったから良かったけど。


今日はお母さんもいないし、私の部屋ではなくそのままリビングに彼を通した。


ソファに座ってもらい、作っておいたトリュフとコーヒーをテーブルに持って行った。


食べていいよと伝え、私はお母さんから頼まれて簡単な夕飯の下準備に取り掛かる。


「何これ超美味いんだけど!絶対店開けるよレベルだよ!」


「ほんと?良かった〜!」


彼が2個目、3個目と手を伸ばしてくれているのがキッチンからも見える。


さすがにお店が開けるっていうのは大袈裟すぎだけど、お母さんに手伝ってもらいながら試行錯誤した甲斐があった。


炊飯器のセットを終えて私もリビングの方へ行くと、向かい合うように彼の上に座らされそのままキスをされた。


彼の唇は少しほろ苦いココアパウダーと、甘いミルクチョコレートの味がする。


「どう?美味いっしょ?」


「ちょっと甘すぎたかな?」


私は彼の首に手を回しながら問いかけた。


彼の手は私の腰に回される。


「俺はこれくらい甘くても全然オーケー」


私たちはじゃれあいながらゆっくりとソファに沈んでいった——。
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