あの日、桜のキミに恋をした
「康介は進路とか考えてる?」


由奈と一緒に帰りながら、俺は「よくぞ聞いてくれた」と心の中で叫んだ。


こうして高校に進学できたのも、自分の進みたい道が見えたのも、きっかけは全て由奈だ。


だから、誰よりも先に由奈に聞いてもらいたかった。


「俺、警察官になろうと思ってるんだ」


「警察!?またどうして……?」


よっぽど驚いたのか、由奈は目をまん丸にしていた。


まぁそれも無理はないと思う。


ほんの2年前までは、警察なんてクソ喰らえくらいに思っていた不良だったんだから。


きっかけは別に大したことじゃない。


バイクの免許を取ってから、バイクに乗れる仕事があればいいなと思っていて、そんな時に交通機動隊——いわゆる白バイ隊員のポスターを見た。


警察なら世間体もいいし公務員だから生活に困ることもない。


おまけに機動隊に入れればバイクにも乗れる。


一石二鳥どころじゃない。


動機は不純かもしれないが、大学を出て警察官になれば、今まで心配をかけてきた親父や兄貴も安心させられる。


そして由奈を守れる男になりたいというのが、ささやかな俺の夢なのだ。


「由奈と会ってなかったら今頃俺どこで何してたんだろーな。ほんと高校来て良かった。こうしてやりたいことが見つかったのも全部由奈のお陰だな!俺また頑張るから!」


由奈の手を握って「こうして毎日一緒にいられるし?」と付け足すと、彼女は「康介は大袈裟だな〜」と微笑んだ。


でも最近、彼女の表情に覇気がないことが気になっていた。


ちゃんと食べているか、寝ているか聞いても「大丈夫だ」の一点張り。


でも彼女の場合、お母さんや親父さんがそばで見ているから、そこら辺は心配いらないのかもしれないけど。


「なんか悩みとかあればいつでも聞くからな!?電話だっていつでもいいし。何かあったらちゃんと話すこと!」


「……うん、ありがと!」


この時の俺は本当にバカだった。


こんなに近くにいたというのに、彼女のことに何も気づいてやれなくて。


いつも通りの彼女だとホッとしていたんだから——。
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