あの日、桜のキミに恋をした
翌日の学校帰り、私は用事があると康介に嘘をついて少し遠くの駅の薬局へ向かった。


買いに行ったのは妊娠検査薬。


私は箱の裏側を上にして商品をレジに出した。バーコードをスキャンすれば商品名が出てくるから、店員に隠しても仕方ないことはわかっていたけど、「この子これ使うんだ」と思われるのが嫌だったのだ。


〝妊娠しているか〟を確かめるんじゃなくて、〝妊娠していないこと〟を確かめるために使うんだ。


そう自分に言い聞かせ、家のトイレに籠って結果を確認する。


判定の所には縦にくっきりと線が入っていた。


結果は陽性、これはつまり〝妊娠している可能性が高い〟ことを意味する。


嘘だ嘘。


絶対何かの間違いに決まってる。


精度が100%の検査なんてないと聞くし、私のもきっとそうだ。


だって康介はちゃんと避妊してくれてたから、妊娠なんてするわけ……。


《《するわけない》》と思った時、ふと中学の頃の保健体育の授業で印象的だった先生の言葉が蘇った。


『コンドームの避妊は100%ではありません』


でも、だったら、私たちみたいな子どもはどうすればいいの?


もしこうやって妊娠しちゃった時はどうすればいいの……?


そんな肝心なことは何も思い出せない。


みんな口を揃えて『避妊をしろ』とそればかり。


大人は誰も、その先の踏み込んだ話はしてくれなかった気がする。


さて、私はまず何からすればいいんだろう。


お母さんに話して、病院行ってちゃんと検査して……それからは?


学校はこのまま通えるのだろうか。


通信とかじゃない普通の高校に通うママさんJKなんて聞いたことがない。


結果が分かった時から私の中に産む以外の選択肢はなかった。


そこの決意は固かった。


我ながら、肝が据わっていたと思う。


正確には、これから先の大変さを理解していなかっただけかもしれないけど。
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