あの日、桜のキミに恋をした
「お母さん」


私は夜ご飯の後洗い物をしてくれているお母さんの後ろから話しかけた。


さすがに真正面から打ち明ける勇気はなかったから。


「なーに?」


「私……妊娠したかもしれない」


最初に返事をした時は、まさかこんな話をされるとは思っていなかったはずだ。


お母さんは蛇口を閉めて私の方を向き、手を握った。


「……どうして分かったの?」


「生理、しばらく来てないなって思って。あとなんか最近眠くし気持ち悪いしあんまり体調良くなくて、色々検索したら当てはまったから検査薬使った……」


「……そう。明日病院行きましょう。まずはそれからよ」


もっと取り乱されるかと思ったのに、お母さんは終始落ち着いていた。


怒られも、責められもしなかった。


「……相手は康介くんなのよね?」


私が2階の自分の部屋に戻ろうとした時、最後にお母さんが聞いてきた。
 

「……ちゃんと避妊はしてた」


「そう……」


お母さんはそれ以上何も追及してこなかった。


相手について黙秘したところで分かりきってはいるけれど。


ただ、彼がいい加減な人でないことは知って欲しかった。


今回のことを康介に話すつもりはない。


もしこのことを話せば、彼は絶対今すぐ高校を辞めて働くなどと言い出すに決まってる。


あんなに嬉しそうに未来の話をしてくれたことなんて、きっとなかったことにするに違いない。


でも私はそんなことは望まない。


せっかく夢を見つけて頑張り始めているのに、こんなところで彼の未来を壊したくなかった。
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