あの日、桜のキミに恋をした
次の日、お母さんと一緒に受診した産婦人科で私は正式に妊娠の診断を受けた。


最後の生理の日から計算すると、間もなく10週に入るくらいだと先生が教えてくれた。


大きさはまだ3センチほどだけど、ちゃんと心臓は動いているらしい。


先生から渡された白黒のエコー写真は、まだ赤ちゃんと呼ぶにはほど遠い姿だったけど、頭と胴体はなんとなく分かった。


診察を終えて待合室でお会計を待ちながら、まだぺたんこのお腹を触ってみる。


ここに私と康介の赤ちゃんがいるんだ。


実際に妊娠してると言われた今でもまだ実感は湧かないけれど、こうして撫でているだけで何だか優しい気持ちになれる気がした。


本来、妊娠というのは喜ばしい出来事で、みんなに祝福されるべきもののはずだ。


しかしこの日の阿部家は、まるでお葬式のような空気に包まれた……。
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