あの日、桜のキミに恋をした
その日の夜、リビングに呼ばれた私はいつもの席に座ってお父さんとお母さんと向かい合った。


妊娠したということは、お母さんがお父さんに伝えてくれていた。


「……彼なんだろう?」


お父さんもまず一番に気になるのが相手のことらしい。


黙ったところで意味はないかもしれないけれど、そこについては何も言わないという私の意思は堅かった。


「……言いたくない」


パシッ——


立ち上がったお父さんは私の頬を思いっきり叩いた。


「庇ったって誰も幸せにはならないぞ!俺がいけなかったんだ。高校に入ったくらいで彼が変わったと思い込んで油断してた。信じた結果がこれだ!どうせ嫌がるお前を無理矢理襲ったんだろう!? 早く言いなさい。これは立派な犯罪だ」


「あなたやめて!」


お父さんがこんなに感情的になるのは私の記憶の限り初めてのことで、珍しく声を荒げるお父さんをお母さんが(なだ)める。


康介を犯罪者呼ばわりしないで。


そんな何もかも終わりみたいな顔しないでよ。
 

私が高校生だからいけないのだろうか。


でもそれってあんまりだ。


私だってこんなつもりじゃなかった。


不安だらけだし、こんなことになってごめんなさいとも思ってる。


色んな感情が込み上げてきて、今にも溢れ出しそうな涙を必死に堪えた。


泣いたって仕方がないんだ。


まだまだ無知で未熟だけれど、私の進む道はもう決めている。


「この子の父親に話すつもりはありません。お金とか色々迷惑かけると思うけど、返せるものは必ず返します。だから、どうか産ませてください!」


私は生まれて初めて土下座をした。


どれくらいそのままでいたかはわからない。


「……由奈、分かったから。今日はもう寝なさい。あったかくするのよ」


お母さんに肩をトントンとされるまで私はずっと頭を下げていた。
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