あの日、桜のキミに恋をした
Side 由奈


チャイムの音と共に4時間目の授業が終わると、みんなが一斉に動き出す。


席を動かして仲のいい子とお弁当を食べ始めたり、売店や食堂に行ったり。


食べ物の匂いが立ち込めるこの教室から一刻も早く離れたくて、チャイムが鳴った瞬間に私は席を立った。


「わ!ビックリした!ごめん大丈夫?」


前をよく見ずに廊下に出たら、教室を覗こうとしていた美月とぶつかりそうになった。


「ごめん前よく見てなくて!」


「大丈夫だよ。それよりも、佐々木くんが由奈のこと心配してたよ?確かに顔色あんまり良くないし、ちょっと痩せた?」


昔から何でも話していた美月に妊娠したことを隠している後ろめたさや、気付かれてしまうかもしれないという不安のせいか、さっきから動悸がする。


美月はただ私のことを心配してくれているだけなのに、放っておいてほしいと思ってしまう自分が嫌だった。


「……そうかな?私はいつも通り元気だよ!」


「そっか……由奈これからどっか行く?もし良かったら一緒に食堂で食べない?」


「……ごめん、クラスの子と食べる約束してて……また今度誘って!」


「うん分かった。またね!」


親友にこんな嘘までついて、私はコソコソと屋上へ向かった。


妊娠が分かってから、ほとんど毎日昼休みは屋上で過ごしている。


つわりが想像以上にしんどくて、食べ物の匂いがしないリフレッシュできる場所を求めていたら、たまたまこの屋上に通じる扉を見つけた。


さすがに開くはずがないとダメ元でノブを回すと、ギィィと錆びきった音をさせて扉が開いてしまったのだ。


以来、雨の日以外は1人でここに来ている。
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