あの日、桜のキミに恋をした
次の日、洗濯をしたパーカーを返すため私は昼休みに再び屋上へ向かった。


彼がいる保証はないけれど、3年生の教室を1クラスずつ覗くよりはいい。


扉を開けると風でフワッと髪が(なび)いた。


見たところ、どうやらあの人はいないらしい。


パーカーを返さなければいけないのに、いなくてホッとしている自分がいた。


「あれ、まーた来たんだ。もしかして、クラスでボッチな感じ?」


数歩進んだところで声が聞こえた瞬間、思わず「はぁ」とため息が出そうになった。


そっとしておいてくれればいいのに、いちいち突っかかってきてひと言多いこの感じ。


間違いなく昨日のあの人だった。


扉の後ろ側までは確認しなかった私が甘かった。


ちょっとイラッとしたから、彼の方へ大股で近づいて行き、パーカーの入った紙袋を突き出してハッキリと言ってやった。


「……これを返しに来ただけです!!」


「おー!わざわざありがとな」


他人の空似というほどでもないけれど、ニカっと笑った顔が康介に重なった。


もうしばらく康介のこんな顔は見ていない。私が彼を避けているから当然なのだけど……。


「じゃあ、私はこれで」


今から私はまた新しい場所を探さなくてはならない。


もうこの人に会うこともないだろうと踵を返した。


「ここのこと、誰にも言わないって約束するなら特別にこれからも来ていいぞ。友達いないみたいで可哀想だし」


別に無視しても良かったのに、なぜか私は足を止めてしまった。


本当にひと言もふた言も余計だし、ここは自分の場所だとでも言いたげな様子に呆れてしまう。


振り返って目が合うと彼はまた笑顔を覗かせて、やっぱりそれはどこか康介に似ていた。


「俺は3年の佐久間(さくま)(じゅん)。後輩ちゃん、名前は?」


「……2年の阿部由奈です」


「阿部ね。よろしく!」


これが私と先輩の出会いだった。


そして私たちは後々そういう関係になるのだけれど、それはかなり先の話……。
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