あの日、桜のキミに恋をした
俺はその日初めてプリクラというものを体験した。


中に入ると由奈は俺にはよく分からない色んな設定を選び、早速撮影が始まった。


機械の指示通りに次々とポーズを決めて撮影が進む。


しかし、段々とそのポーズのハードルは上がっていった。


『次はぎゅーっと抱き合ってみよう!』


俺と由奈は顔を見合わせて固まった。


この時はまだ付き合いたてだったし、手しか繋いだことがない初心なカップルだったから。


カメラの方に顔を向けたまま俺はそーっと由奈を抱きしめる。


小さくて、壊してしまいそうで、すごくいい匂いがした。


俺は自分の心臓の音が由奈に聞こえるんじゃないかとヒヤヒヤしていた。


『3・2・1』というカウントダウンの後、シャッター音の瞬間、俺の頬に由奈の唇がチュッと触れる、


目をパチクリさせながら由奈の方を見ると、彼女はしてやったという顔で俺の方を見ていた。


「今のは反則だろ……」

 
俺は由奈に向き合い、まっすぐ見つめながら肩に手を置く。


余裕あるフリをしながら、全く余裕なんてなかった。


——同じキスでも、好きなコとするそれはこんなに違うものなのか?

 
少しずつ顔を近づけると、由奈もこれから何が起こるのか察してゆっくりと目を閉じる。


さっきまでうるさいくらいに聞こえていた機械のアナウンスも、ゲーセン特有の賑やかな音も、全く聞こえない。


2人だけの世界で、俺たちは初めてキスをした——。
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