あの日、桜のキミに恋をした
由奈の言葉は確かにちゃんと耳から入ってきて、脳でも認識しているはずなのに、俺は一向に言葉の意味が理解できなかった。


「え……?今なんて?」


「……康介と別れたいの。お願いだから私と別れてください」


俺はどうして今、由奈によそよそしい敬語を使われて、頭を下げられているのだろうか。


これはきっと何度聞いても話を理解できそうになかった。


「いやだから!いきなり何の話かって聞いてんだけど!」


俺は少し苛立ってきて、つい声を張ってしまった。


それは、何度聞いても理解できない自分に対して、そしてロボットのようにただ同じことを繰り返すだけの由奈に対して。


由奈は少し身をすくめながらも話し続けた。


「……康介よりも大事な人ができたの。だから、別れて欲しい」


これはあれだろうか、どこかにカメラが仕掛けてあるドッキリの (たぐい)だろうか。


それにしたってこんな冗談笑えない。


これだけ毎日一緒にいて、俺以外に目移りする暇なんてなかったはずだ。


そんな言い訳は通用しない。


「じゃあ誰なんだよ。今すぐここに連れてこいよ!」


由奈はとうとう押し黙った。


ほら、テキトーな理由を並べているだけだ。


その時、他の生徒が知るはずのない屋上(ここ)の扉が開いた。


「由奈!」
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