あの日、桜のキミに恋をした
俺の彼女を馴れ馴れしく名前呼びして近づいて来たのは、この前屋上(ここ)で会ったあのチャラそうな先輩だった。


そいつは由奈の隣に来て「大丈夫か?」と声をかけながら彼女の手を握った。


それに応じるように握り返した由奈を見て、俺はついに抑えが効かなくなった。


「おい、離せよ」


男の手首を掴んで軽く捻り上げた。


本気を出せば多分こんな奴の腕は折れてしまうから。


「嫌だって言ったら?」


随分挑発的な表情で俺のことを見下ろしてきた。


上等だ。


そっちがその気なら、こっちももう手加減はしない。


「ざけんなっ!さっさと由奈の手離せよ!」


俺が胸ぐらを掴んで引き寄せると、さっきまで男の手を握りしめていた由奈が今度は俺の腕を掴んで止めに入った。


「やめてッ!暴力はダメ!……康介のこういうとこ、ほんとにイヤだった……!」


まるでずっと我慢させられてきたとでも言いたげなその言葉は、俺にとってあまりにもダメージの強いもので。


どうやら俺は、自分が思っていた以上に由奈を困らせ、怖がらせていたらしい。


何だよそれ。


アホらしくてやってらんねぇ。


「そっか……悪かったな暴力的で。その感じだと、どーせここでコイツとコソコソ会ってたんだろ?信じらんねェ」


俺は言いたいことだけ言って屋上を後にした。

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