あの日、桜のキミに恋をした
「由奈!帰りながらでもいいから、昨日のこと……改めて話したい」


ホームルームが終わってすぐに由奈の席に駆け寄ると、彼女は手を止めて困惑の表情を浮かべた。


すると教室の入り口の方から由奈を呼ぶ声がする。


立っていたのは昨日のあの男だった。


由奈に向かって〝帰ろーぜ〟の口パクとジェスチャーをしている。


それを見て頷いた由奈は鞄を持って立ち上がり、俺の方は見向きもせず、下を向いたまま何も言わずにアイツの方へ行ってしまった。


そんな彼女の後ろ姿を見て思い知った。


由奈の中に俺はもういない。


見つめる先には、俺じゃなくてアイツがいるんだ、と。


いつからそうだったのか、今となっては確かめようがないし、確かめたところでどうにもならない。


くだらない話に笑いながら歩いた帰り道や、ペアリングを着けて出かけたデート、俺の腕の中にいたあの時間……。


一緒に過ごしたあの日々だけは、どうか本物だったと信じたい——。
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