冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
従業員用の出入口から外へ出て小走りで通りをホテルの裏側へ曲がると、いつもの場所に宗一郎の車が停まっていた。
 
慎重にあたりを見回して助手席の方へ回り込む。

今日は早番上がりで時間が早いから誰かに見られる危険性はいつもより多い。誰も見ていないことを確認してからドアを開けて中に入った。

「お疲れ」
 
運転席の宗一郎が口を開いた。

「ごめん、宗くん。メッセージに気がつかなくて、そんなに長くおしゃべりしてたつもりはなかったんだけど……」
 
言い訳をする日奈子に、宗一郎が微笑んだ。

「いや、いきなり誘ったんだから、それはべつに。早番なんだから、おしゃべりくらいするだろう。俺がいつも早く帰れと言うのは遅番だからだ」

「今日はどうしたの? もう仕事は終わり?」
 
日奈子は尋ねる。

早番の時に彼が迎えに来たのははじめてだが、そもそもこの時間に彼が帰宅できること自体が驚きだ。

「ああ、秘書室からちょっと仕事のペースを落とすべきだって意見が上がってきて、スケジュールの基準を少し変えることに同意した。そしたらさっそく今日は帰れってさ。まあ、やるべきことは終わってるわけだから、ありがたい話なんだけど」

「そうなんだ」
 
その話に日奈子はまた驚いてしまう。
 
会社では冷徹と恐れられている彼に秘書室が意見するなんて。
< 103 / 201 >

この作品をシェア

pagetop