冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
そうしないと、また前みたいに額にキスをされてしまう。

この間彼は『日奈子が忘れたと思ったらこれくらいはさせてもらう』と言っていた。
 
宗一郎がふっと笑って「残念」と呟いて離れていった。

そして車を発進させる。とりあえず、飲食店がある賑やかなエリアへ向かうようだ。
 
日奈子はホッと息を吐いた。

「で? 日奈子このあと予定はないんだな? 俺の希望を叶えてくれる?」
 
どこか楽しげに彼は言う。

「え! う、うん……」
 
いきなりの接近と俺の希望という言葉に頬が熱くなるのを感じながら、日奈子はすぐに頷いた。

「リクエストはあるか?」

「な、なんでも……。あ、だけど、タイ料理以外がいいな」
 
さっきの莉子との会話を思い出しながら日奈子は言った。

「来週、同僚とタイ料理カフェに行く約束したんだ。ガパオライスにハマっちゃって。アジアン料理が好きな同僚がいてさ、美味しい店いっぱい知ってるんだ」

「そうか」
 
宗一郎が目を細めた。

「じゃあ、今夜は俺が適当に選んでもいいか?」

「うん、なんでもいいよ。なんでも美味しく食べられる自信がある。今お腹ぺこぺこなんだ」
 
日奈子の口から自然とそんな言葉が出る。ここのところしっかり空腹を感じるようになった。そしてなにを食べても美味しく感じる。
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