冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
信号待ちで車を停めた宗太郎が、こちらを見て柔らかく微笑んだ。

「安心したよ」
 
前を向き、また車を発進させる。
 
その綺麗な横顔を見つめながら日奈子の胸はきゅんと跳ねる。
 
彼はずっと日奈子を心配してくれていたのだ。

母が亡くなったあの日から一歩も動けずに、心を閉ざしていた日奈子を近くで見守りながら。
 
日奈子を愛していながらも完璧に隠し通していた。それもすべて日奈子を想ってのことなのだ。

「和食でいい? 日奈子、天ぷらが好きだろう? この前仕事で行った店、日奈子が好きそうだと思ったんだ」
 
宗一郎の言葉に頷きながら、日奈子は、胸をある強烈な想いが貫くのを感じていた。

——この彼の深い愛に応えたい。
——彼を愛し、彼に愛される人生を歩みたい。
 
それこそが自分にとっての幸福で、それ以外に幸せになる道はこの世に存在しない。
 
けれどそれは同時に、恩人を裏切り母の言葉に背を向ける道でもある。
 
——自分の幸せのみを追い求めて、それで本当に許されるのだろうか。
 
癖のある黒い髪が、流れるネオンの光に透けるのを見つめながら、日奈子は考え続けていた。
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