冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
「大奥さまに教わったことと違うことをすることに、宗くんは不安にならないの?」
 
日奈子と母の関係とは少し違うかもしれないが、彼もまた孤独を抱えていて祖母の教えを頼りに歩んできたのだ。

そして今、その教えとは違う判断を下そうとしている。
 
宗一郎がビールのグラスを静かに置いた。

「まったく不安ではないと言えば嘘になる。三年前ならできなかっただろうな。だけど、本質を間違えなければそれでいいと今は思う。ホテル九条を末長く存続させること、それが俺の使命なんだ。それを間違えなければ方法が違っても問題はない」

「本質を間違えなければ……」
 
自信に満ちた彼の言葉を、日奈子は繰り返した。

「ああ、もちろん慎重に検討しながらだけど。……もう少し食べようかな。日奈子、次はなににする?」
 
宗一郎が目の前の食材に視線を送って問いかける。

「えーと、次は野菜がいいな……」
 
それに答えながら、日奈子は不思議な気持ちになっていた。

頼りにしてきた人の言葉に、すべて従う必要はないという彼の決断を新鮮に感じている。

『本質を間違えなければ』
 
その言葉が頭から離れなかった。
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