冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
ホテル九条東京の通用口を出ると、外はひんやりとしていた。

十月半ばを過ぎた晩秋の夜風を頬に感じながら、日奈子は通りを駅へ続く方向とは逆に曲がる。

その先はホテル九条東京の植栽が遥か向こうまで続いている。

昼間でもホテル関係の業者くらいしか通らない人気のない道路の路肩に、黒いスポーツタイプの高級車が停まっている。

近づくと、パワーウインドウが開いた。

「遅い!」
 
運転席に座る宗一郎が渋い表情で一喝した。

「ふ、副社長……!」
 
日奈子は慌てて周りを見回した。駅とは反対側のこの道に来る従業員はあまりいない。が、万が一ということもある。

こんなところを誰かに見られるわけにはいかなかった。
 
宗一郎が目を細めて首をくいっと傾けた。車に乗れという合図だ。
 
日奈子は車を回り込んで助手席に乗り込んだ。

「一度本社に戻られたんですか?」
 
さっきは運転手付きの車で来たはずのなのに今は自分の車に乗っている彼に、日奈子が問いかけると、彼は苦々しい表情になった。

「いや、戻る時間がなかったから、車を回してもらった。さっきの件の聞き取りをしてたからな。とりあえず話を聞けたのは各グループのマネージャーと辞めた社員に直接事情を聞いたという数名の社員だが、なんとなく事情が掴めた」
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