冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
そう言って手を伸ばし、彼は日奈子の頬に触れる。
 
その感触に日奈子の背筋が甘く痺れた。ほんの少し触れるだけで、その先を期待してしまうようになっている。
 
そして考えるより先に、言葉が口から溢れ出る。

「宗くんのおかげだよ。こうやって、なにかを美味しいと思えるの」
 
自分の中の変化を彼に知ってほしかった。

「先週は泣いてしまってごめんなさい。でもあの時、宗くんが言ってくれたことで私少し楽になった。あれから前に進めたような気がしてる。前はね、こうやって話をして笑うことにも申し訳ない気持ちになったんだ。お母さんは、もうこういうことができないのにって。でも今はね、私がこうやって笑うこと喜んでくれるって思えるの。お母さんはきっとそれを望んでるって」
 
目を閉じて頬に感じる彼の手に両手を添えて頬ずりをする。日奈子の胸は熱い想いでいっぱいになる。

「宗くん……」
 
——愛してる。
 
言えない言葉が日奈子の頭を駆け巡った。なにも考えずに、ただ彼だけを見て胸に飛び込むことができればどんなにいいか。

なにもかも、放り出してふたりだけの世界へいって、ただの男と女としてふたり愛し合うのだ。

「宗くん……」

——大好き。

「つっ……日奈子」
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