冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
少し切羽詰まったような彼の声音に、日奈子はハッとして目を開いた。

宗一郎が困ったような表情で日奈子を見つめている。

「あ……ごめんなさい」
 
日奈子は頬を染めて、手を離す。気持ちが昂って、思うままに振る舞ってしまった。

「いや……」
 
宗一郎が手を下ろして、目を閉じて気持ちを落ち着けるように、ふーっと長い息を吐く。

次に目を開いた時にはいつもの優しい眼差しに戻っていた。

「だがそういうことをされると、さすがに俺も自分を抑えられなくなる。……今は俺の忍耐に感謝するんだな。……今日は部屋まで送ってやれない。ここから見てるからいつものように部屋に着いたら合図してくれ」
 
そう言って少し情けなさそうに笑う彼に、日奈子の胸はきゅんと跳ねる。

「うん、……ごめんね」
 
うつむいて答える。我慢しないでもっと触れてほしいという、もうひとりの自分が呟く声を聞きながら。
 
たくさんの思いが日奈子の中でマーブル模様を作っていた。
 
大切な人たちが遺した言葉と、それを大切にしつつ自分の道を行くという彼の決意。日奈子の中に確かにある、彼の愛に応えたいという強い想い。

「じゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ」
 
車を降りると、冷たい夜の空気が日奈子の頬を撫でた。
 
マンションのエントランスで振り返ると、運転席で宗一郎が優しく微笑んで手を上げる。

『本質を間違えなければ』
 
さっき聞いたばかりの彼の言葉を日奈子は繰り返し考えていた。
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