冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
素直に
青い空のもと東京の街が午後のひと時を刻んでいる。

ホテル九条東京のロイラルスイートルームのリビングで、美鈴と彼女の母親が向かい合わせに座っている。
 
日奈子は、ソファに座る美鈴に跪く形で彼女にハンドマッサージを施していた。がこれはあくまでもただのふりだ。日奈子はセラピストではないから本来はこのようなことはしない。

今は彼女に、ここにいてほしいと言われたのだ。
 
おそらくその原因は、彼女と母親の関係だろう。良好な関係ならば、部屋から出ていってほしいと言うはずだ。
 
三十分ほど前に突然フロントへやってきて美鈴の部屋まで通せと言った母親に対して、ホテルスタッフは当初の申し送り通り、美鈴がホテルにいるかどうかも伏せたまま、まずは美鈴に確認した。

実はこういうことは何度かあって、彼女はそのたびに居留守を使っている。

今回もそうするのかと思ったが、今日は会うことにしたようだ。

『だけど、どうも会うと喧嘩になっちゃうのよね。だから鈴木さん、なにかやってるふりをして部屋の中にいてくれない? 母も私も誰かがいたらいつもより落ち着いて話せるだろうし』
 
そして今、向かい合わせに座るふたりの美鈴にマッサージを施しているというわけだ。
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