冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
「せっかく帰国してるのに、あなた全然、連絡つかないじゃない」
 
和服姿の母親が紅茶をひと口飲み、さっそく小言を言っている。美鈴によく似た美女だった。

「仕事が忙しいのよ。帰国している間にしなくちゃいけないことがたくさんあるんだもの」
 
悪びれることなく美鈴が答えた。

「忙しいって言っても……。そもそもあなたいつまでロサンゼルスにいるつもり? そろそろ日本に戻って来なさい。……聞いたわよ、お付き合いしている方がいるんでしょう? 今回はお父さんがちゃんと話を聞きたいって言ってたわ」
 
母親が日奈子の方をちらちら見ながら声をひそめた。
 
はっきりとは言わないが、あのことという言い方と、声の調子から、おそらく彼女と宗一郎の熱愛疑惑のことを言っているのだろう。
 
確か宗一郎は、ある事情からそういうふりをしていると言っていた。

どういう事情かは知らないがそれが彼女の母親にまで伝わっているのだ。平静を装いながら、日奈子ははらはらする。
 
一方で美鈴は、機嫌よく口を開いた。

「まぁそれは、具体的な話になったらきちんと私から報告するわ。今は見守ってくださいな。あまり騒がれると、うまくいくものもいかなくなっちゃうわよ。なんといっても今回は今まで相手とは違うんだから」
 
明言を避けつつ暗にうまくいっているようなことを言っている。
 
母親が嬉しそうに頷いた。

「それならまぁ……確かに。あなたも大人だものね。今回は大人しく待つとしましょうか。それにしてもあなたもようやくものがわかるようになってきたのね。お父さんには私から待つように言っておきます」
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